野口武悟『読書バリアフリーの世界 大活字本と電子書籍の普及と活用』を読みました。
大活字本を中心に、読書バリアフリーについて扱った本です。大活字本とは、一般的な書籍よりも大きめの文字サイズ(14~22ポイント程度)で作られた書籍のことです(一般的な書籍は9ポイント程度)。
大活字本は老視(老眼)の人向けと考えられがちですが、元は弱視の人向けの拡大写本に起源を持つそうです。拡大写本登場以前には弱視者は「点字を習得して『点字図書』を読んだり、普通の書籍(『点字図書』に対して『墨字図書』と呼ぶことがあります)を何とか読んだりという状態だった」といいます。拡大写本は1960年代に生まれ、1978年には日本初の大活字本が出版されることとなりました。この日本初の大活字本は、どらねこ工房による『星の王子さま』であり、やはり弱視者向けに作られたものでした。
ところで、大活字本は電子書籍の登場によって、その役割を終えることになるのでしょうか。著者は「紙の『大活字本』か電子書籍の拡大機能かの二者択一や、対立軸で考えるべきではありません」と述べています。電子書籍を利用するためにはデバイスが必要であることや、ICT機器の操作に抵抗がある人、紙面の文章は読めるがディスプレイの文章は読みづらい人などのニーズに応えるため、多様な選択肢が確保されるべきだと説きます。
また電子書籍もフォーマット等に関して、アクセシビリティが十分とは言えません。例えば、リフロー型であるか否か(購入前に容易に確認できるか)、TSS音声読み上げに対応しているか、アプリに読み上げ機能があるか、視覚障害者にも操作可能か、などなどです。あるいはまた、音声読み上げの精度についても、発展途上と言わざるを得ないのが現状です。
この本の終わりに、著者は「読者=私たちにできること」として、「知ること」と「伝え、広めること」を挙げています。これに倣って、以下2点ほど、私にとっても勉強になったことを、情報共有したいと思います。また、当ブログの電子書籍に関する関連記事をご参照いただけると、読書アクセシビリティについての知見や課題を知ることが出来るかと思います。
読書バリアフリー法の歴史
まず、1点目。読書バリアフリー法に至る歴史について。読書バリアフリー法制定に向けて、転機となったのは、2018年のマケラシュ条約への加入でした。正式には「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者の発行された著作物を利用する機会を促進するためのマケラシュ条約」といい、「本の飢餓」(Book Famine)を解消するための国際協力の仕組みのひとつです。
これに伴い、著作権法が改正され、視覚障害者等のために、著作権者に無許諾で複製(音声化、デジタル化など)や公衆送信が可能になり、その主体としてボランティアグループも含まれるようになりました。
また一方で、障害者差別解消法によって行政機関に義務付けられた、障害者への「合理的な配慮」の提供があり、日本図書館協会は同法施行直前に「図書館利用における障害者差別の解消に関する宣言」を採択していました。
こうした経緯を経て、2019年に読書バリアフリー法(視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律)が制定・施行されました。この法律は、視覚障害者等の読書環境の整備を促進する法律で、図書館における電子書籍などの視覚障害者等が利用しやすい書籍を量的拡充・質的向上するよう促進すのみならず、そうした書籍を出版社が販売することを促進するよう、国に求めています。
障害者の要望
2点目。もう一点、本書で興味深かったのが、経産省が出版関係者との検討の場として設置した「読書バリアフリー環境に向けた電子書籍市場の拡大等に関する検討会」が実施した「障害者の情報行動アンケート」です。
・視覚障害者等の読書ニーズは、紙媒体から電子書籍、オーディオブックに移りつつある。
・ロービジョン(弱視)、上肢障害・全身障害では文字の拡大、ディクレシアでは文字間・行間の調整に対するニーズが高かったが、音声読み上げへのニーズは障害の種別を問わず寄せられた。
(本書「6.3 アクセシブルな電子書籍の普及に向けて」より引用)
音声読み上げはやはりアプリケーションソフト側の対応が肝要だと思われるので、その点の改善が進むことを期待したいです。
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