『電子出版学概論』を読みました

『電子出版学概論』

湯浅俊彦『電子出版学概論 アフターコロナ時代の出版と図書館』(出版メディアパル, 2020)

電子書籍をめぐる出版状況や読書アクセシビリティ、図書館についての問題など、文字通り、概説されており、勉強になりました。

興味深いトピックが多数ありましたので、ここでは私の関心に従って、いくつか拾っておきたいと思います。

電子書籍の普及と発展において、AppleのiPadと、AmazonのKindleが果たした役割は大きい。読書専用端末のΣブック(松下電器)も、LIBRIé(ソニー)も短命に終わっていたからです。その後に発売されたソニーのReaderも、BookLive!Reader Lideoも同じく短命で販売終了となってしまいました。販売が続いている読書端末だとKoboがありますが、それ以外ではスマホがその役割を果たしている部分もあるかと思います。

Googleの書籍全文デジタル化もすごい。2011年時点で、スキャンされた書籍数が1500万冊、50億ページだそうです。国会図書館の所蔵資料のデジタル化が、90万冊、2億6千万ページだということなので、いかに壮大なスケールかがわかります。

海外では学術雑誌の電子ジャーナルへの移行が進んでいるらしい。これは雑誌のみならず、学術書に及ぶことも考えられますが、それに関連してDDA(Demand-Driven Acqusitions: 利用者駆動型購入方式)というものがあるそうです。すごく雑に説明すると、図書館で利用される方式で、試読サービスがあって、利用者がそれ以上を読みたい場合、購入リクエストを送れるといったものです。例えば、この機能があると、図書館は将来の品切れや絶版を恐れて購入しておく必要がなくなります。ある調査によれば、洋図書の58.5%、和図書の16.4%が1回も貸出されていなかったということで、リクエストがあった場合にだけ購入すれば、購入費の効率化が図れるというわけです。(が、これにも問題がなくはないのですが、それはまた別の機会に)

読書アクセシビリティ問題は、電子書籍と親和性が高い。視覚障害者やディスクレシア(識字障害者)、またページめくりに困難がある身体障害者など、従来、紙の本を読むことが難しかった方々に読書の可能性を広げることができるのは、電子書籍の長所のひとつです。法的支援も進んでおり、これまでは点訳や録音図書の作成には著作権者の承諾が必要だったのですが、著作権法の改正によって、公共図書館は著作権者の許諾なく、かつまたより広い範囲の障害に対応した著作物の複製や送信が可能になりました。余談ながら、この本で紹介されている、録音図書の作成に非協力的な、ある作家の言葉は、悪い意味で印象に残りました。

「図書館における視覚障害者のための録音図書サービスに協力すること自体、自分の時間を取られる余計な仕事に感じられ、またそれぞれの地域の言語について『変なアクセント』にしか聞こえない作家からすれば、紙の本を読むことができない人は本を読まなければよいではないかと考えるのであろう」(p.137)

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