大事なことですが、書きそびれていました。『功利主義論』の訳者、奥田伸一氏のことです。
既訳の訳者の多くは、いわゆる学者、大学教員ですが、奥田伸一氏は、学者でも大学教員でも大学院生でもありません。本人の意向により、経歴を明らかにしていません。奥田伸一という名前もペンネームです。
『功利主義論』新訳の出版は、私(八不代表)が奥田氏に翻訳の草稿を見せてもらったことに始まります。その時はまだ第四章までしか訳されてませんでした。その時点で、奥田氏は既訳のいくつかを参照しており、疑問に思う部分があるとのことでしたので、もっと多くの既訳(最終的にはすべて)を参照して、従来訳とは具体的にここが違うという新訳を出すことを提案しました。
作業は非常にスローペースで進み、そのさなかに岩波文庫から関口正司氏の新訳が出たのも驚きでしたが、小社版刊行後に、日経BPクラシックスから中山元氏の新訳が出ると知ったのもさらなる驚きでした。
『功利主義論』新訳刊行に際して、訳者略歴のようなものを付けたほうがいいのではないかと提案しましたが、経歴を伏せたいということと、翻訳家といった肩書もつけたくない(翻訳家を名乗れるレベルではないという理由)から、結局、訳者に関する情報を何も載せない(というか何も載せることがない)という判断に至りました。
学者でも翻訳家でもない人間が訳している『功利主義論』の品質に疑問を抱く読者もいるかもしれませんが、そこは是非内容で判断してください。既訳と訳し方が異なる部分をピックアップした「訳者覚え書」も付いていますので、そこを参照してくだされば、小社刊行版の『功利主義論』の有益性を理解していただけると思います。
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