『電子書籍制作・流通の基礎テキスト』を読みました

『電子書籍制作・流通の基礎テキスト』

植村八潮[編著]、電子出版制作・流通協議会[著]『電子書籍制作・流通の基礎テキスト 出版社・制作会社スタッフが知っておきたいこと』(ポット出版、2014)

基本的に、既存の出版社が、既刊の紙の本を電子書籍化するための解説がメインなのですが、電子書籍のいろはから、作り手サイド向けのためか、やや込み入った部分にも言及しており、勉強になりました。(個人的には「電書協EPUB3制作ガイド」でいまいちよくわかっていなかった部分が解説されていたのが収穫でした)

『ポストデジタル時代の公共図書館』の感想でも、アメリカでのセルフ・パブリッシングの隆盛を紹介しましたが、この本においても、アメリカで「発刊数も相当数あるが、販売面でもセルフパブリッシング書籍は大きな売り上げを上げている」ことが指摘されています(p.144)。他方で「欧州では電子書籍自体の伸びはアメリカに比べると微増で推移してきたのだが、2013年に入り、欧州でも電子書籍が大きく飛躍しはじめている」とのことです(p.144)。

「電子書籍の新しい流れ」と題されたキャプターでは、出版業界の事業構造の変化について述べられているのですが、その前段として、次の指摘があります。

「一般に、電子書籍は、印刷による複製費、紙代や製本代、物流費がかからないことから、コストダウンがはかれると思われている。この結果、紙の書籍よりも電子書籍の販売価格を安くできるとされている。しかし、実際には必ずしもそのようにはなっていない。むしろ、現状の大多数の電子書籍は、紙の書籍の電子化であり、電子書籍経費に企画や執筆に関わる経費を計上していないから安くできているといってよい。あるいは、読者の間では、物理的な書籍の所有がないことから、安くて当然という認識が強く、安くしないと販売しにくい側面もある。現在、電子書籍が安いのは多分に政策的な判断の結果である」(p.166)

紙の書籍になく、電子書籍にあるコストのひとつが、検証コストです。これは、OSやビューアのバージョンアップごとに表示変化の検証にかかる費用で、印刷された紙の書籍にはなかったコストであり、販売部数にかかわらず、一律に生じるコストでもあります。

事業構造の変化は、こうしたことのみならず、当然に、出版社、印刷会社、取次にも及び、その役割に変化をもたらすことになります。

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