J・S・ミルの著作、論文、書簡を網羅した全33巻からなる『J・S・ミル著作集』(英語)をオンラインで無料で読むことができます。
ここではその著作集について解説しています。
ミル著作集とは
『J・S・ミル著作集』(Collected Works of John Stuart Mill)は、カナダのトロント大学で編纂されたました。しばしばCWと略記されます。全33巻の大著です。現在、これを参照していない研究書、訳書は存在していないといっていいでしょう。
この著作集は現在、Liberty FundのOLL(On Line Library)にて無料で閲覧できます。
トロント大学出版のライセンスの下に公開されており、許可なく複製することは禁じられていますが、各巻ごとにダウンロードすることは可能なようです。ダウンロードはHTML版の他、巻によって、PDF版やKindle版が選べる場合があります。PDF版は紙の書籍版をスキャンしたもののようです。
識者のことば
「20世紀後半から現在にいたるジョン・スチュアート・ミル(John Stuart Mill, 1806-1873)研究にとって決定的に重要なのは、トロント大学におかれたミル・プロジェクトによって 1963 年から刊行が始まり 1991 年に完結したトロント大学版『ジョン・スチュアート・ミル著作集』である(Priestley and Robson eds. 1963-1991)。編集方針、収集・収録された論考・書簡の範囲、厳密なテクスト・クリティーク、詳細な各版対照など、 多くの点で決定版と言ってよいこの著作集によって、ミル研究は資料の面ではほぼ完備した状況下でおこなわれるようになった」(強調引用者)
川名雄一郎「J. S. ミル研究の現在」より
http://www.vssj.jp/journal/13/13-kawana.pdf
「『ミル著作集』(Collected Works of John Stuart Mill)は、二十八年の歳月を費やして、一九九一年に三十三巻が完結された。この著作集の進行に伴って、内外のミル研究は著しく進展し、ミルの現代的意義は、死後百二十年を経て、多角的に再評価されつつある」(強調引用者)
山下重一・矢島杜夫「訳者はしがき」(A・ベイン『J. S. ミル評伝』)より
「〔ミル著作集の〕基本的性格は、第一に〔……〕あつめうるすべての著述を網羅する全集(complete works)ではなく〔……〕、ミルの主要著作を時代順にではなくテーマ別に選択配列した作品集(collected works)であるということ、だが第二に、それは全集ではないが、ただ公刊単行著作物を集成するにとどまらず、重要な論文はもとより、草稿や手紙のたぐいまでもできるだけ多く収録するという意味では、実質的には全集的性質をそなえた作品集であるということ〔……〕である」(強調引用者)
杉原四郎「J・S・ミル新著作集について」(『杉原四郎著作集II』)より
ミル著作集のここがスゴイ
この著作集の根本目的は、「印刷と手稿との両方の形で数多くの異形が存在する著作についての完全に校合されたテキストを提供することと、これまで未公表であったか、あるいは公表ずみであっても今では容易に見られなくなってしまった著作の、正確なテキストを用意すること」です。
◎各版の詳細な校合が行われている
ミル生前に第二版、第三版と版を重ねたものについては、各版の異同が、加筆修正や削除箇所はもちろんのこと、誤植の類に至るまで指摘されており、さらには初期草稿や印刷用原稿についても現存する限りのものが収録されています。
◎閲覧困難だった論文および多くの書簡を収録
ミルが様々な雑誌に寄稿した論文のいくつかは、論文集未収録であったり、論文集自体が稀覯本であったりと、閲覧困難な状態になっていたのですが、この著作集には網羅的に収録されています。さらにはミルが残した多くの書簡が収録されています。かつてロンドン大学在任中のハイエクがミル書簡の収集に努めましたが、彼がまとめたのはテイラー夫人と交わされた書簡のみでした(John Stuart Mill and Harriet Taylor: Their Friendship and Subsequent Marriage, 1951)。この著作集では総数537通、うち241通は本書で初めて公表されたものだということです。
◎専門家による解説や関連資料の附録が充実
「各巻に内容に関する専門家の解説とテキスト編集上の解説が巻頭に、関連資料の附録と人名・引用書索引とか巻末にあって、著作集の利用価値を高めている」(杉原四郎「ミル著作集の完成」前掲書)。これらの解説は、ミルの邦訳書でもよく利用されており、ミルのテキストを読む上で、非常に大きな助けとなっています。
各巻の内容
各巻の内容は以下の通りです。
Volume I – Autobiography and Literary Essays
第1巻 自伝および文学論集
『ミル自伝』(初期草稿や破棄原稿含む)、「詩およびその種類についての感想」、幼少期に書いた「ローマ史」など。
Volume II – The Principles of Political Economy Part I
第2巻 経済学原理 (1)
『経済学原理』第一巻、第二巻
印刷用草稿、普及版含め、初版~第七版の対照・校合
Volume III – Principles of Political Economy Part II
第3巻 経済学原理 (2)
『経済学原理』第三巻
附録として、テイラーとの往復書簡とケアンズとの往復書簡の『原理』についての部分を収録
Volume IV – Essays on Economics and Society Part I
第4巻 経済・社会論集 (1)
「通貨奇術」、『経済学試論集』、「通貨問題」、「労働者の諸要求」など
Volume V – Essays on Economics and Society Part II
第5巻 経済・社会論集 (2)
「労働とその要求にかんするソーントン」、「土地保有改革」、『社会主義論』など
Volume VII – A System of Logic Part I
第7巻 論理学体系 (1)
『論理学体型』初版~第八版だけでなく、初期草稿、印刷用原稿を含めた対照・校合。「労働とその要求にかんするソーントン」、「土地保有改革」、『社会主義論』など
Volume VIII – A System of Logic Part II
第8巻 論理学体系 (2)
『論理学体系』第四巻、第五巻、第六巻
附録として初期草稿、『体系』についてのベインとの往復書簡を収録。
Volume IX – William Hamilton’s Philosophy
第9巻 ウィリアム・ハミルトンの哲学
『ウィリアム・ハミルトン哲学の検討』
Volume X – Essays on Ethics, Religion, and Society
第10巻 倫理・宗教・社会論集
『功利主義論』、『コントと実証主義』、『宗教三論』、「ベンサム論」、「コールリッジ論」など
Volume XI – Essays on Philosophy and the Classics
第11巻 哲学・古典論集
プラトン対話篇の抜粋と解説、グロート『ギリシャ史』書評など
Volume XII – The Earlier Letters 1812-1848 Part I
第12巻 初期書簡集 1812-1848 (1)
ミル6歳の手紙(画像あり)など。ハイエクによる序論
Volume XVIII – Essays on Politics and Society Part I
第18巻 政治・社会論集 (1)
『自由論』、トゥクヴィル『アメリカのデモクラシー』書評など
Volume XX – Essays on French History and Historians
第20巻 フランス史・フランス史家論集
カーライル『フランス革命史』書評など
Volume XXI – Essays on Equality, Law, and Education
第21巻 平等・法・教育論集
『セントアンドルーズ大学名誉学長就任講演』、『女性の解放』など
Volume XXIV – Newspaper Writings Part III
第24巻 新聞寄稿論文 (3)
「通貨奇術」、『経済学試論集』、「通貨問題」、「労働者の諸要求」など
Volume XXXIII – Indexes
第33巻 索引
この巻はオンライン版には含まれません。