聴く日本文学
近代日本文学セレクション
vol.1 恋と愛
近代日本文学セレクションは
AI合成音声による朗読音源です。
第一弾では、恋と愛にまつわる
珠玉の近代日本文学作品9作を厳選。
何度でも聴き返したくなる傑作短編を収録しました。
収録作品
林芙美子
幸福の彼方
絹子は見合いで信一と結ばれ、ささやかながらも幸せな新婚生活を送る。しかし、信一には絹子の知らない過去があって……。
ふっと触れあった指の感触に、絹子は胸に焼けるような熱さを感じていた。
信一を好きだと思った。
私は混雑したプラットフォームの上を歩き出しながら、何度も振りかえって汽車の中にいる彼の方を見た。
彼は雨でぐっしょり濡れたガラス窓に顔をくっつけて、私の方をよく見ようとしながら、かえって自分の呼吸でそのガラスを白く曇らせ、そしてますます私の方を見えなくさせていた。
堀辰雄
燃ゆる頬
寄宿舎生活を送る十七歳の「私」は、同室となった美少年・三枝に興味を惹かれる。ホモソーシャルな空間における淡い恋の行方とは……。
芥川龍之介
秋
学生時代、文学的才能を評価されていた信子だったが、早々に商社勤務の男と結婚し、家庭に入る。将来の伴侶と目されていた文学仲間で従兄の俊吉も、信子の妹と結婚してしまう。
「小説ばかり書いていちゃ困る」
「お前だっていつまでも女学生じゃあるまいし」
信子は夫に背を向けたまま、「もう小説なんぞ書きません」と、囁くような声で言った。
夫はそれでも黙っていた。しばらくして彼女は、同じ言葉を前よりもかすかに繰り返した。それから間もなく泣く声が洩れた。
私は、はじめてやっと相手と二人きりになれていたのだ。
……町の中、群衆の中では、結局のところ、私は誰といても、いつも一人きりでしかなかった気がする。
山川方夫
展望台のある島
結婚を約束した恋人と江ノ島を訪れた男は、彼女が自分にとってかけがえのない存在であることに気がつく。
34歳で夭逝した作家・山川方夫が残した、洒脱で都会的な感性に溢れた傑作。
外村繁
夢幻泡影
病に伏した愛妻の看護を続ける夫。しかし悲劇の時が訪れて……。
夢幻泡影とは、人生の儚さを意味する仏教用語。
不思議なほど涙は出なかった。
しかしこのとき以来、瞼の奥に、たとえば涙ぶくろとでもいった、鈍い重みを持った袋のようなものができた感じで、もし一度この袋が破れでもしたら、最早涙は際限ないのではないかとも思われた。
「ねえさん、この手紙、いつ来たの?」
私は、はっと、むねを突かれ、顔の血の気が無くなったのを自分ではっきり意識いたしました。
太宰治
葉桜と魔笛
不治の病で余命幾ばくもない妹が隠していた三十通あまりの手紙。そこには文通相手との恋が赤裸々に綴られていた。そして文通が途絶えていることを知った姉は、思わず相手になりすまし、妹に手紙を書いてしまう。
素木しづ
三十三の死
病のため足を失ったお葉(よう)は、世を倦み、三十三歳になったら死のうと決意する。それで却って生気を取り戻すお葉だったが……。
お葉はその青年が堪えられなく恋しい時があった。青年はお葉を愛していた。
彼女はいま夢のような心のうちに、物悲しい気分が彼女の心をつつんでいくのを覚えた。
今自分は愛されるという幸福のために、死を忘れてしまうんじゃないかと思ったのである。
とうとうあなたに溜め息をさせてしまいましたね。それは僕ばかりのせいじゃないのです。
月のせいでもあり、夏の夜のせいでもありますよ。
岡本かの子
夏の夜の夢
すでに婚約者のある歳子だったが、牧瀬という青年に出会い、夜な夜な彼の庭で過ごすようになる。牧瀬の庭で語らう夜は、歳子にとって甘美で魅惑的な時間だった。
岡本かの子の優れた感性と叙情性によって美しく描かれた月夜の幻のような時間。
山本周五郎
あだこ
旗本の小林半三郎は、浮世に失望し、出仕もせず、このまま飲まず食わずで餓死しようと考えていた。そこに突如現れた「あだこ」と名乗る女。彼女は甲斐甲斐しく半三郎の身の回りの世話をする。半三郎は、親友の十兵衛がよこしたに違いないと考えるが、次第にあだこに心を許していく。
「あだこはその娘が、不幸であればいいと思うのか
「あたしただくやしいだけです」
「みすずが幸せでいるのはいいことなんだ」と彼は穏やかな声で言った
VOICEPEAKによる自然な朗読を実現
AI音声合成技術を搭載した、入力文字読み上げソフト
VOICEPEAKを使用して作成されています。
特別付録として電子書籍を付属
特別付録テキスト版として電子書籍
(PDF版とEPUB版の両方)が付属します。
八不公式SHOP@BASEにて発売中