近代仏教/明治仏教とは?

楠龍造『龍樹の仏教観』のサポートページ企画です。今回は、近代仏教/明治仏教について取り上げます。

明治仏教とは何か?

「『近代仏教』という用語は、第二次世界大戦後に一般化した言葉である。それ以前では、『明治仏教』と呼ばれることが多かった」 林淳「明治仏教から近代仏教」『禅研究所紀要 』第42号

近代仏教という枠組みでは、通常、明治から昭和前期を対象としますが、ここでは主に、明治期の仏教を中心に取り上げたいと思います。

廃仏毀釈と近代化・西洋化

明治仏教は、廃仏毀釈とともに始まります。廃仏毀釈は、神道国教化に伴う、仏教の排斥運動であり、受難の歴史であるとともに、仏教が社会と如何に向き合うべきかを問い直す契機ともなりました。(廃仏毀釈については改めて別項を立てて解説したいと思います)

思想面では、近代化と西洋化の到来が、同様に仏教のあり方についての問い直しを迫りました。近代化と西洋化とは、近代科学的な世界観の把握によって、仏教的宇宙観が非科学化されたことや、宗教が前近代の遺物化されたこと、あるいは西洋哲学やキリスト教との邂逅・比較・対峙などを指します。

廃仏毀釈ののち、明治憲法によって信教の自由が定められると、それまでむしろ国教的地位にあった仏教は、他の宗教と対等な一宗教ということになります。それ故、それまで抑圧を受けていたキリスト教が、欧米列強の文化的・経済的支援を背景に勢力を拡大するとの脅威論が仏教界で広がったといいます。

他方、井上円了『仏教活論序論』や、村上専精『仏教一貫論』、清沢満之『宗教哲学骸骨』など、西洋哲学やキリスト教を踏まえた上での、仏教の理論的研究も盛んになります。

仏教の宇宙論を図示した「世界大相図」

「新仏教」運動と「精神主義」運動

運動面においては、まず古河老川や境野黄洋らによる「新仏教」運動がありました。彼らは公娼廃止を訴えるなど、仏教を用いた社会改良を目指しました。これに対し、清沢満之とその弟子たちによる「精神主義」運動は、宗教の社会的効用よりもむしろ個人の内心の問題に着目し、近代合理主義によっては解消しきれない残余としての宗教について取り組みました。

国家主義的性格

日露戦争以降、仏教界は国家主義的性格、戦争協力的な姿勢を色濃くしていきます。もちろん厭戦論、非戦論を唱える仏教者もいましたが、飽くまで一部にとどまり、大勢は協力的でした。

中でも田中智学の日蓮主義は、日露戦争以後、一層国家主義的性格を強め、彼の創設した立正安国会は、大正三年には国柱会と改称し、国体思想を普及して、昭和前期における超国家主義思想の礎となりました。

近代仏教を学ぶための文献

大谷栄一・吉永進一他『増補改訂版 近代仏教スタディーズ 仏教からみたもうひとつの近代

非常に網羅的で、近代仏教を学ぶ上での最適の必携書。増補改訂版の方が安価なので、おすすめ。

碧海寿広『入門 近代仏教思想』

井上円了、清沢満之、近角常観、暁烏敏、倉田百三の各人が、近代仏教の課題に、それぞれの仕方で、如何に取り組んだか、が述べられています。

土屋詮教・辻善之助『明治仏教概説 廃仏毀釈とその後の再生

土屋詮教『明治仏教史』(全文)に、辻善之助『明治仏教史の問題』第一題「神仏習合と廃仏毀釈」を追加した合冊版。

池田英俊『明治の仏教──その行動と思想』

古い本ではありますが、明治仏教の問題圏を総覧する好著。国会図書館デジタルコレクションでも閲覧できます。https://dl.ndl.go.jp/pid/12223062

末木文美士『思想としての近代仏教』

さらに踏み込んだ考察。清沢満之、曽我量深、倉田百三、田中智学、鈴木大拙らについての論考に加え、仏教研究や大乗非仏説論などにも言及されています。

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楠龍造『龍樹の仏教観』

著者は、清沢満之の弟子で、原著は明治33年に刊行されています。この時期は仏教の理論研究が隆盛を極めた時期で、本書もまた、明治仏教による理論研究の成果のひとつと言えると思います。龍樹入門としてのみならず、明治仏教との関わりとして読んでも興味深い一冊です。

また、この復刻版では、誤植の修正や新字新かなへの変更のみならず、仏教用語を中心に、注記も充実していますので、仏教の特異な世界観などについて馴染みがない方でも、入門書的に楽しめるものと思います。

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