電子書籍の過去と現在

電子書籍メインの出版社を目指していますので、電子書籍について勉強しています。今日は電子書籍の過去と現在について書かれたニ冊の本を紹介します。

『EPUB戦記』

小林龍生『EPUB戦記 電子書籍の国際標準化バトル』(慶應義塾大学出版会, 2016)Amazon.co.jp  honto

EPUBとは、IDPF(国際電子出版フォーラム)が策定した電子書籍のフォーマットのことです。最新版であるEPUB 3.0では縦書きやルビなどの日本語組版に対応しているのですが、これを実現させた歩みを描いたのが本書『EPUB戦記』です。

「日本では考えられないが、欧米には標準化活動を主たる職業として、それだけで生活している専門家が少なからず存在する。彼らは、国から報酬を受け取ったり、企業の顧問として報酬を受け取ったりしながら、標準化活動に専念している」(p.150)

そんな中で、日本と台湾でしか使われていない縦組が国際標準に含まれるようになったことが、いかに貴重なことであったか。非常に興味深い話でした。

また第4章の「書物の未来へ」も、電子書籍が切り拓く革新性や革命性と、それ自体がそもそも書物が持っていた要素、可能性であることなど、興味が尽きません。

「スパインファイルとは、EPUB形式の一冊の本を構成する複数のHTMLファイルを、デフォルトでどのような順番に表示するかを指示するファイルのこと。スパインという言葉そのものが、本の背表紙に由来する」(p.209)

背表紙に束ねられた本をコーデックス(冊子本)といいますが、それ以前には巻子本(いわゆる巻物)というのもありました。ページ概念を失った電子書籍は巻子本的でもあります。

『電子書籍アクセシビリティの研究』

松尾聡 [編著]『電子書籍アクセシビリティの研究 視覚障害者等への対応からユニバーサルデザインへ』(東洋大学出版会, 2017)Amazon.co.jp honto

電子書籍は得てして「本好き」に蔑視?軽視?されがちなのですが、紙の本に比べて、収納性が良いことや、環境負荷が少ないということ以外にアクセシビリティの高さがあります。

文字の大きさや色を変えられることによって、弱視者や色弱者の読書を支援できることや、各デバイスの読み上げ機能を用いることで視覚障害者も読書することができるようになります。さらにはディスレクシア(読字障害者)や上肢障害で紙の本の利用が難しい方などにも利便性があります。

この本は、現状の電子書籍のアクセシビリティについて調査したもので、障害者支援の法整備から、EPUB3リフロー型の普及度合いであったり、音声読み上げの誤読問題といったことまでが書かれています。

なお、本書刊行時には音声読み上げに対応していなかったhontoですが、現状では最も高度に対応している電子書籍ストアのひとつとなっています。例えばhontoで購入した電子書籍をAndroidの音声読み上げ機能(Talkback)で読み上げさせると、現在読み上げている一文の色が変わり、ルビがある箇所はルビの方を読み上げてくれます。

それでも誤読問題はなお残ります。不勉強で知らなかったのですが、SSML(音声合成マークアップ言語)というものがあり、私もこれから勉強しようと思います。

「音声読み上げによるアクセシビリティに対応した電子書籍制作ガイドライン」(総務省)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000354698.pdf (リンク切れ)

(追記)制作側で対応するよりも、デバイス側で対応する方がいいような気がします。

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